2024年04月16日
古いビルの売却に必要な基礎知識とは? 不動産オーナーが知っておきたい注意点や税金も含めて解説
古いビルを売却するにあたって必要な基礎知識とは何でしょうか。売却の手順や業者選び、費用など不動産オーナーが知っておきたい事柄は多数です。この記事では、満足できる結果を求めるために欠かせない注意点や税金なども含めて、古いビ […]
古いビルを売却するにあたって必要な基礎知識とは何でしょうか。売却の手順や業者選び、費用など不動産オーナーが知っておきたい事柄は多数です。この記事では、満足できる結果を求めるために欠かせない注意点や税金なども含めて、古いビルの売却に関する基礎知識を解説します。
古いビルを売却する手順
まずここでは、古いビルを売却する際の手順を紹介します。
売却のスケジュールを考える
古いビルを売却する理由は現金化したい、相続の対策をしたいなど様々です。ビルの売買そのものの流れに理由は関係ありませんが、何のために売却するかによって、スケジュール感が違ってきます。
例えば、急に現金が必要になったケースでは、のんびりと構えていられません。とはいえ、ビルは一般的な住宅よりも売却完了までの期間が長くなりがちです。いつまでに売却を終わらせたいのか、ケースに応じたスケジュールを考えることがより重要になります。そのためにも、以下に示す手順を頭に入れておく必要があるといえるでしょう。
査定に出す
古いビルを売却する際は、不動産会社の査定に出します。自分が売りたい金額が決まっていたとしても、その金額が物件の価値と比較して高ければ、なかなか買い手が見つからないかもしれません。また、希望売却額が安ければ損をしてしまうことにつながります。
査定に出すことで、物件の価値に見合った売却額を知ることが可能です。不動産会社の査定には机上査定と訪問査定(現地査定)の2種類があります。
・机上査定
物件の資料を使って行う査定です。所在地や築年数、面積、設備、修繕や管理の状況、入居率などのデータにより金額を算出します。物件を見ていないため、実際の売却額と大きく差が出る可能性がある点に注意が必要です。机上査定を受けたうえで訪問査定を受けるのが一般的といえます。
・訪問査定
実際に現地を訪問して行う査定です。表面的なデータではわからない部分もチェックできるため、より精度の高い査定ができます。初めから訪問査定を受ければよいのではないかと思うかもしれませんが、査定額が希望とかけ離れているなど、机上査定で売却を考え直すケースがあることを考えれば、手間と時間のかかる訪問査定は机上査定の次でよいでしょう。
注意したいのは、査定を依頼した不動産会社の査定が本当に妥当なモノかどうかをどこで判断するかです。事前にインターネットで周辺の類似物件の相場感をチェックしておくことで、ある程度の判断はできます。しかし、それだけでは万全とはいえません。それに加えて、複数の不動産会社に査定を依頼することがおすすめです。プロの査定額を見比べることで、失敗しにくい売却ができるでしょう。可能であれば、その地域で古いビルの売却に強い業者を選ぶことが重要です。
媒介業者を選ぶ
査定を依頼した不動産会社の1社にそのまま売却するケースは別にして、売却を決断したら媒介業者を選びます。査定を通じてより信頼できる業者、古いビルの売却に強い業者に依頼しましょう。
販売開始
媒介業者が決まったら、いよいよ販売開始です。販売価格は慎重に決定しましょう。スケジュールに余裕がある場合は少々高くてもよいかもしれません。しかし、早期の売却を目指すなら、希望する金額よりも下げて売り出さなければならないケースもあるでしょう。媒介業者のアドバイスを受けながら、最終判断は自分で行います。
売出価格で買い手がつかない場合、値下げをする余地があるのか、いつまで待つかを考えておく必要もあるでしょう。見込み客との間で価格交渉や、内覧のスケジュール調整も必要です。
古いビルの売却では、一般住宅のようなチラシなどを使った広告宣伝は行わないケースが多いといえるでしょう。対象とする買い手の層が異なるためです。また、事業用物件であるビルを売りに出していることを広範囲に知られたくないケースもあります。なぜ売りに出しているのかなど、痛くもない腹を探られるのを防ぐためです。
売買契約・所有権移転登記
買い手が見つかったら売買契約を交わします。古いビルでも新しいビルでも不動産の売買契約は慎重を要する契約です。重要事項説明はもちろんのこと、その他の説明や質問事項への回答には漏れがないように注意します。すべての疑問点を解消しておかないと、後で「知らなかった」「聞いていない」といったトラブルになりかねません。代金の清算と引渡し、所有権移転登記も含めて、最後の手続きをしっかりと行います。
媒介契約の種類とメリット・デメリット
媒介業者との契約には、一般媒介契約と専任媒介契約、専属専任媒介契約の3種類があります。それぞれの特徴、メリット・デメリットを解説します。
一般媒介契約
一般媒介契約は、販売活動を行う者の制限がない点がメリットとなる媒介契約です。媒介業者を1社に絞る必要がありません。また、オーナーが自ら販売活動を行い、買い手を探して売買することも可能です。全面的に任せたい業者が見つからない場合や、幅広いルートで買い手を探したいニーズに適した契約形態だといえるでしょう。ちなみに、法律による媒介契約期間の縛りはありませんが、行政指導で3ヶ月以内となっています。
デメリットとしては、媒介業者にはオーナーへの状況報告義務がありません。そのため、一般媒介契約を結んだ媒介業者の仕事ぶりがわかりにくいケースがあります。さらに、不動産流通機構のレインズ(不動産流通標準情報システム)への登録も任意です。レインズとは、全国の不動産会社で情報が共有されるシステムで、レインズへの登録があるのとないのとでは、物件情報に触れる顧客の数に大きな差があるといえるでしょう。レインズに登録されていない物件は、価格変更や成約などがあってもリアルタイムでの状況更新がされないため、販売活動に支障をきたすおそれもあります。
一般媒介契約を媒介業者側の視点で考えれば、自社だけに任せてくれたわけではないため、販売に力が入りにくいケースが起こり得ます。取り扱う多くの物件の一つに過ぎない扱いとなってしまい、思い通りに売却が進まない可能性がある点に注意しましょう。一方で、業者間で競争意識が働き、良い結果につながるケースもあります。これらは明示型といって他社にも依頼していることを明示した一般媒介契約で考えられることです。
複数社に依頼していることを知られたくない場合は、特約によって非明示型とすることが可能です。明示型と非明示型のどちらがよいとは一概にいえないため、個別案件の事情に適したほうを選ぶとよいでしょう。
専任媒介契約
専任媒介契約は、他の媒介業者を入れずに1社だけに媒介を依頼する契約です。複数社に依頼することはできませんが、オーナー自らが買い手を探して売買することはできます。契約の有効期間は3ヶ月以内に限定されており、媒介契約締結の翌日から7営業日以内にレインズに登録する義務がある点も一般媒介契約との大きな違いです。また、少なくとも2週に1度はオーナーに状況を報告しなければなりません。
自分でも買い手探しをしたいが、特定の業者にしっかりと販売活動を行ってもらい、適度に報告も受けたいといったニーズをもつオーナーにとって、メリットがある契約形態だといえるでしょう。
専属専任媒介契約
専属専任媒介契約はもっとも縛りの厳しい媒介契約です。1社のみの契約であるだけでなく、オーナーが自ら買い手を探すことは可能ですが、専属専任媒介契約を結んだ媒介業者を経由しなければ売買できません。契約の有効期間は専任媒介契約と同じ3ヶ月ですが、レインズへの登録は契約締結の翌日から5営業日以内と短くなっています。さらに、報告義務も1週に1度以上となっており、専任媒介契約の2倍の頻度です。媒介業者の責任が重くなっている分だけ、オーナーにはメリットが大きいといえるでしょう。
自分で買い手を見つけて売買する気がないケースや、信頼できる業者に完全お任せで売却したいケースで、報告は密に受けたいといったニーズに適した契約形態となっています。
古いビルの売却にかかる諸費用・税金
ここでは古いビルの売却にかかる一般的な諸費用や税金について解説します。
売却にかかる諸費用
・媒介手数料
売買が成立すれば、媒介業者に対して媒介手数料を支払います。一般には媒介手数料も仲介手数料と呼ばれるケースが多いでしょう。媒介手数料は、売買契約の時点で半額を、引き渡しの時点で残りの半額を支払うケースが一般的です。媒介手数料の上限は売却金額によって異なります。原則として200万円までの部分が5%、200万円を超えて400万円までの部分が4%、400万円を超える部分が3%です。つまり、売却金額が400万円を超える場合は3つの率で計算します。
500万円で売却したと仮定すると、10万円+8万円+3万円で合計21万円です。また、土地を除いて別途消費税がかかります。
・収入印紙代
売買契約書には売却金額に応じて収入印紙を貼る必要があります。収入印紙を貼っていなかったとしても、売買契約そのものの効力が失われるわけではありませんが、印紙税法違反となるおそれがある点に注意が必要です。簡単にいえば、売買契約にかかる税金を収入印紙の形で納付します。うっかり貼り忘れた場合、2倍の過怠税が加算され、トータルで3倍分の納付が必要になるかもしれません。気づいた時点で申告すれば、1.1倍の納付で済みます。収入印紙を貼ったときは、法律の規定により忘れずに消印を押しましょう。
(売却金額が100万円を超える場合の印紙税額一覧)
売却金額(契約金額) | 印紙税額 |
100万円超500万円以下 | 2,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 1万円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 2万円 |
5,000万円超1億円以下 | 6万円 |
1億円超5億円以下 | 10万円 |
5億円超10億円以下 | 20万円 |
10億円超50億円以下 | 40万円 |
50億円超 | 60万円 |
※印紙税額が安くなる「不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」は、2024年3月31日までに作成された契約書が対象となるため、2024年4月1日以降の売買契約書には適用されません。そのため、上記の税額となります。
・登録免許税
不動産の売買を行うと所有権移転登記が必要です。所有権移転登記には登録免許税が発生します。売買を原因とする所有権移転登記の登録免許税の額は、土地と建物ともに固定資産税評価額の2%です。税率等は変更されるケースがあるため、都度確認してください。
・司法書士報酬
不動産の売買では登記も含めて司法書士の力を借りるケースが一般的です。古いビルの売却においても同様で、多くの場合、司法書士報酬がかかります。所有権移転登記は売主と買主が共同で行うものですが、専門家ではない両者が連携して登記を行うことは現実的ではないケースが多いため、可能な限り司法書士に依頼するとよいでしょう。
・その他
上記の他に、各種書類を揃えるための手数料や交通費などがかかります。
譲渡所得税
古いビルを売却して利益が生じた場合、譲渡所得税の納付が必要です。譲渡所得税は、課税譲渡所得金額に対して、税率を掛けて算出します。課税譲渡所得金額は、売却金額から取得費と譲渡費用、特別控除額を引いたものです。税率は所有した期間によって異なります。
古いビルを売却した年の1月1日時点における所有期間が5年以下なら「短期譲渡所得」となり、所得税が30%で住民税が9%です。所有期間が5年超なら「長期譲渡所得」として、所得税15%と住民税5%がかか ります。また、2037年までは基準所得税額の2.1%に相当する復興特別所得税の納付が必要です。短期譲渡所得では課税譲渡所得金額の0.63%に、長期譲渡所得では0.315%になります。
売却にかかる費用・税金とは異なりますが、相続で得た古いビルを売却する場合は、相続税も考慮した金額設定をする必要があるかもしれません。
古いビルを高く売る・早く売るためのポイント
先に古いビルの売却では、その地域で古いビルの売却に強い業者を選ぶことが重要だと述べました。古いビルをより高く、より早く売るためには、業者選び以外にもポイントがあります。
見栄えを整えておく
古いビルの売却に限った話ではありませんが、売却したい古いビルは一種の商品です。商品の見栄えのよさは売れ行きに影響します。古いビルは古いからこそ、新しいビルよりも見栄えを気にする必要があるといえるでしょう。少なくとも清掃して清潔を保つくらいはやっておきましょう。簡単に修理できる不具合は直しておくことをおすすめします。また、テナントから苦情が入るようなマイナス要素があれば、買い手が敬遠する可能性大です。
メンテナンスの状況を記録しておく
古いビルの買い手にとって、メンテナンスがしっかりと行われているかどうかは、購入判断に大きく影響する要素だといえます。記録という目に見える形でメンテナンス状況を残しておけば、買い手に対するアピールポイントとして有効です。
満室にするか空きビルにするか
ビルの売却では満室にしておくことが好ましいといわれています。新しいオーナーとなる買い手の立場では、空室があるビルは問題があるのではないかと疑ってしまうためです。また、問題はなくても空室を埋める手間と費用負担が発生するため、満室よりも売れにくいと考えられています。
ただし、すべてのケースで満室にしたほうがよいとは限りません。空きビルを求めている買い手が少なくないためです。空きビルを求めている側から見れば、入居中のテナントは現在のオーナーと賃貸借契約を結んでいるため、自分の考える条件に合致しないケースがあります。また、そもそも賃貸借を考えていないケースも少なくありません。以上のことから、満室を望む買い手を対象とした売却が得策か、空きビルを望む買い手への売却が得策かを考える必要があるでしょう。
中途半端にテナントが入っている場合は、どちらにも売りにくいおそれがあります。この場合、空きビルにするためには立ち退き料を払うなど困難が予想されるため、満室を目指すほうがよいと考えられます。満室にはならなくても、入居率を高めることができれば、その分だけ売りやすくなるでしょう。
古いビルを売却する前に考えておきたいこと
最後に古いビルを売却する前に考えておきたいことを4つ紹介します。
ローン残債の処理
ビルをローンで購入する場合、通常は抵当権を設定します。ローンを完済していれば、抵当権は抹消されているはずであり、何も問題はありません。しかし、残債があれば処理方法を考えておく必要があります。
アンダーローン(売却金額がローン残債を上回る)であれば、売却代金で残債の弁済が可能です。弁済とともに忘れずに抵当権抹消登記を行います。オーバーローン(売却金額がローン残債を下回る)では通常、売却ができません。別途弁済資金を用意して、抵当権を抹消する必要があります。抵当権抹消登記にも登録免許税その他の費用が必要です。
テナントへの通知と対応
入居中のテナントには、オーナーチェンジする旨を通知する必要があります。通知するタイミングとしては、売買契約が成立してすぐがよいでしょう。オーナーチェンジしているのに通知がないという事態は困りますが、早すぎると契約が成立しなかったときに困ります。オーナーチェンジに際しては、敷金を売却代金に含むことも忘れないようにしましょう。
リノベーションの検討
ビルの状態によっては、リノベーションの検討も選択肢になり得ます。新装して売りやすくする以外に、売れ残った場合でも貸しやすくなる点がメリットです。どこまでやるか、やらないかは費用対効果を考えて判断する必要があります。
売却に関する相談
売却を決めたわけではないものの、少しは考えているという段階から、できれば専門的なアドバイスを受けられる業者やサイト等に相談することをおすすめします。売却の必要性が高まってから準備をするより、余裕をもった売却が可能です。
古いビルの売却は基礎知識の確認と相談が重要
古いビルを売却する際は業者選びを含む基礎知識の確認が重要です。実績があり信頼できる業者でなければ安心して任せることができず、好条件での販売活動を行ってもらえないかもしれません。また、売主として知っておくべき事柄は円滑な売却に必要な要素です。専門家への相談も活用し、よりよい売却収益を目指してください。