%e3%83%93%e3%83%ab%e5%a3%b2%e5%8d%b4%e4%ba%8b%e4%be%8bビル売却事例

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鉄鋼商社「阪和興業」のビル売却事例を参考に売却のメリットやデメリットを解説

ビルの中

国内の大手鉄鋼商社、阪和興業株式会社は、拠点変更や財務体質強化といった明確な目的を持って、過去に自社ビルを売却しています。 大手商社の事例を参考にしつつ、ビル売却のメリットやデメリットを考えてみましょう。 ▼ビル売却の事 […]

国内の大手鉄鋼商社、阪和興業株式会社は、拠点変更や財務体質強化といった明確な目的を持って、過去に自社ビルを売却しています。
大手商社の事例を参考にしつつ、ビル売却のメリットやデメリットを考えてみましょう。

▼ビル売却の事例についてはこちらの記事でも総合的にまとめています。ぜひあわせて参考になさってください。
大規模なビル売却事例を2021年~2023年からピックアップしてご紹介! 売却の流れやポイントも解説

国内外に多くの拠点をもつ大手工業商社「阪和興業」のビル売却事例

阪和興業株式会社は、大阪府大阪市に本社を置く、鉄鋼や鉄鋼原料などの建材、非鉄金属や生活資材などを取り扱う大手商社です。
2024年4月時点で国内に19拠点、海外23か国に49拠点を展開し、幅広い事業をおこなってます。

本記事ではこの阪和興業のビル売却を、参考になる大きなビル取引の事例としてご紹介します。

2016年には「物流センター」を売却

遡って古い出来事からのご紹介となりますが、2016年2月に、阪和興業は千葉県習志野市に所在していた「物流センター」の大部分を売却しています。
売却理由としては、新たな物流センターを群馬県の伊勢崎市に建設する計画があり、それに伴って既存の習志野市の拠点を売却することになったと公表されています。
事業計画の一環としての、建設的な理由での売却であったといえるでしょう。

当該売却について売却先は公開されていませんが、売却益としては土地部分で127億円、そして建物部分に関してはおよそ2億6000万円の「売却損」が出たと報じられています。
結果的に阪和興業は2016年3月期の決算にて127億円の特別利益を計上し、また税金費用の面で、およそ50億円を削減できたとされています。

【関連知識】ビルを保有している際にかかる税金

上記事例にて、物流センターを売却したことによって50億円もの税金を削減できたと報じられていることからも分かるように、ビルなどの不動産を法人が保有している場合には、ばかにならない額の税金がかかることとなります。
自社ビルを保有することそのものが、取得する際の購入費用から保有中のメンテナンス費用、管理のための費用など様々な支出を生むものですが、さらに税金についてもそれなりの金額を見越しておく必要があるため、ビルを運用する場合には毎年かかるコストとして、そして売却する場合にも主に削減できるコストとして留意しておくとよいでしょう(売却時にかかる税金もあります)。

ビル保有に関する税金には、具体的には以下のようなものが挙げられます。

自社ビル「取得時」にかかる税金

・不動産取得税
不動産を取得した時点でかかる税金です。但し、相続や法人の合併といった経緯で取得した不動産の場合には課せられません。

・登録免許税
取得したビルの登記をする際にかかる税金です。この登記をすることによって、自社ビルの権利を第三者に対して主張することができるようになります。

・消費税
ビル取得にあたっての、主に建物の譲渡・貸付け、不動産屋への仲介手数料や司法書士への報酬などに対して消費税が課せられます。

・印紙税
法で定められた一定の文書を作成する場合に、当該書面に印紙を貼ったうえで、消印することによって納税します。

自社ビル「保有中」にかかる税金

・固定資産税
不動産を保有している個人や法人が納める税金です。毎年、1月1日の時点で所有者として登録されている個人および法人に対しての課税となりますが、売買がおこなわれた場合は一般的に、所有権が移った日付をもとに負担割合を計算して、売主と買主とで1年ぶんの納税額を分担することが通例となっています。

・都市計画税
市街化区域内にある土地や建物の所有者に対して課される税金です。
こちらも固定資産税と同様に、毎年1月1日の時点で所有者として登録されている個人や法人に対しての課税となります。

自社ビル「売却時」にかかる税金(売却で利益が出た場合)

・所得税
ビルを売却した際に、自身が不動産を購入した当時の購入額よりも高く売れた場合、つまり利益が出た場合には、「譲渡所得」としての所得税がかかります。

・印紙税
ビル「取得時」の場合と同様です。

・登録免許税
ビル「取得時」の場合と同様です。

・消費税
ビル「取得時」の場合と同様です。

自社ビル「賃貸中」にかかる税金

・法人所得税
保有している自社ビルを賃貸に出している場合には、不動産所得として法人所得税が課されます。

・法人住民税
事業所が所在している地方自治体に対して納める地方税です。

・消費税
事業用不動産からの家賃収入に対して、消費税がかかります。

・法人事業税
賃貸事業が黒字の場合には、法人事業税も課税されます。

2023年には東京本社に隣接する「新阪和ビル」を売却

2023年の2月には、阪和興業は中央区築地に所在する、「新阪和ビル」の建物および土地を売却しています。
当該ビルは、阪和興業の東京本社に隣接するかたちで保有・運用していた賃貸用オフィスビルでした。
建物の延べ床面積はおよそ7400平方メートル、土地面積はおよそ1200平方メートルで、売却額はおよそ143億円と公表されています。売却先は非公表です。

この売却については、主に財務体質の強化を図ることが目的であったと公表されています。

「新阪和ビル」の売却については、阪和興業からの公式プレスリリースが、2024年4月現在もホームページ上で閲覧できるかたちで残されています。
売却の細かい内容や連結実績など、詳細をお知りになりたい方は下記リンクより当該資料をご確認ください。

▼阪和興業株式会社 2023年2月10日「固定資産の譲渡及び特別利益の発生に関するお知らせ(PDFファイル)」
https://www.hanwa.co.jp/ms/data/pdf/ir/20230210-3_4248.pdf

【関連知識】上記プレスリリース後の証券取引所での出来事

前項でリンクとしてもご紹介した「固定資産の譲渡及び特別利益の発生に関するお知らせ」が阪和興業から公開された当日の、証券取引所での動きについてもご紹介しておきます。

当該プレスリリースの当日、2023年2月10日の後場(ごば)において、大きな動きがみられました。
「後場」とは証券用語のひとつで、証券取引所での午後の取引時間(おおむね12時半から15時まで。取引所により異なる)のこと、およびそこでおこなわれる取引のことを指します。

当日、東京証券取引所の後場にて、阪和興業の銘柄が大きなマイナス転換をみせたのです。
13時50分の時点で前日比230円安(5.5%安)の3920円となり、一時は3830円まで大きく下落しました。

この動きは前述のビル売却に関するプレスリリース、および2023年3月期の第3四半期累計業績の発表によって、営業利益の“急減速”が多くの投資家の目にとまったことによるものと考えられます。

自社ビルの売却にはメリットもデメリットもある

本記事ではあくまで一例として阪和興業のビル売却事例をご紹介していますが、業種や規模問わず、一般的に考えて企業がビルを売却する際には、メリットもあればデメリットもあります。
それぞれ主要なポイントを解説します。

自社ビルを売却するメリット

メリットとしてまず挙げられるのは、何よりも「大きな資金調達がいっきにできる」という点でしょう。
保有しているビルを売却すれば手元の大きな現金を確保でき、ビジネス上の資金繰りの安定を見込めます。特に適した買い手を見つけられた場合には、新たな事業への投資、事業拡大に直結できる大きな資金を手にすることができるでしょう。

また、ビル売却は経費削減にもつながります。前述でご紹介した、「ビルを保有していることによって課せられる税金」という面のほか、ビルを所有しているとメンテナンス費用や管理費用、テナントとのやりとりのための必要経費など多くの支出が発生します。
なかでもビルメンテナンスの費用についてはビルの築年数が経過していればしているほど、建物の想定外の劣化なども現れやすくなり、大きな負担となってしまいます。
そういった物件はテナントの空きが増えることにより賃料や管理費の収益は減る一方、そしてメンテナンスのための支出は増える一方、という悪循環におちいっているケースも少なくありません。
適切な売り手を見つけたうえでビル売却をおこなえば、少なくともその時点での最大価値で建物を現金化したうえで、従来かかっていたコストを一切なくすことができます。

そのほか、例えば働き方改革やテレワーク推進など、事業そのものの在り方を大きく転換させる時期に入っている企業においては、ビル売却自体がその転換によいように働くでしょう。「せっかくこの不動産があるのだから……」というような既存の建物ありきの考え方では、大きな事業改革はなかなか難しいものです。

自社ビルを売却するデメリット

保有しているビルを売却する際に、場合によっては生じる可能性のある「デメリット」についてもみておきましょう。
それぞれのデメリットは必ずしも発生するものではありませんが、ビル売却前の事前準備という点でも、念頭に置いておくと大変有益です。

まず、現実的にさまざまなビル売却事例でも実際に生じている点として、「リース料」の問題があります。
自社が保有しているビルを売却したあと、多くの企業では、そのビルから完全撤退するわけではなく、建物の一部を賃貸として引き続き利用するケースが多くなるでしょう。売却して大きく現金化できるほどの大規模な不動産は、従来その建物で主要事業や本社機能が稼働していた、という場合が多いからです。
こういった場合では、当然のことながらビル売却後にはそれまで必要のなかったリース料が、新たな負担として発生していくこととなります。

また、もうひとつの大きなデメリットとなる可能性としては、「売却した事実が世間に知られたことにより、企業のイメージダウンとなってしまう場合がある」という点があります。
前述でご紹介したような、証券取引所での銘柄マイナス転換もその一例といえるでしょう。
一般的に、世間の人は「ビルが売却された」と聞くと「大きな損失を埋めるための資金調達」というふうにイメージしやすい傾向にあります。そういったイメージを持たれてしまうと、その企業の将来性についても悲観され、取引先や顧客が離れてしまう場合もあります。

但し、これはあくまで、例えば企業からの公式な発表、今後の事業計画発表などがきちんとおこなわれなかった場合や、対応が遅れてしまった場合などに特に起きやすいといえます。
あらかじめ入念な計画を立てたうえで、直後の決算内容や長期的なビジネス計画などを顧客や取引先へ共有しておくことで、避けられる可能性があります。

ビル売却は、明確なゴールを念頭において実施することが大切

本記事では阪和興業株式会社のビル売却事例を一例として参考にしつつ、ビル売却によって得られる売却益や、その後の動きなどについて解説しました。

ビル売却は単なる資金調達手段というわけではなく、事業を拡大するための計画の一環であることがほとんどです。
保有しているビルの売却について検討されているオーナー様は、ニュースや情報サイトで話題になっているさまざまな著名事例や、企業から公表されるデータなどもぜひ参考に、最適な選択をなさってください。

まとめ

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