2024年04月15日
クラリオン本社ビル売却の事例に学ぶ、企業の成長の在り方
仏フォルシア社による買収、日立グループからの離脱といった出来事のなかで本社ビルの売却をおこなったクラリオン社の事例は、ビル売却を検討している様々な企業にとって参考になる事例のひとつです。本記事では、企業の変遷やビル売却に […]
仏フォルシア社による買収、日立グループからの離脱といった出来事のなかで本社ビルの売却をおこなったクラリオン社の事例は、ビル売却を検討している様々な企業にとって参考になる事例のひとつです。本記事では、企業の変遷やビル売却についてをまとめて解説しています。
▼ビル売却の事例についてはこちらの記事でも総合的にまとめています。ぜひあわせて参考になさってください。
大規模なビル売却事例を2021年~2023年からピックアップしてご紹介! 売却の流れやポイントも解説
日本のカーエレクトロニクスを支えてきた「クラリオン」の概要
ビル売却の事例をご紹介するまえに、まずはクラリオンについて概要をご紹介します。
車載音響から自動運転まで、日本のカーエレクトロニクス発展に貢献しつづけるクラリオン
通称「クラリオン」、2024年3月現在の社名はフォルシアクラリオン・エレクトロニクス株式会社となりますが、同社は1940年の「白山無線電機株式会社」としての設立以来、車載音響機器やHMI&ディスプレイといったカーエレクトロニクス、コックピットエレクトロニクスや関連サービスの開発・販売をおこなってきた事業です。
そのほか、「クラリオン」と聞くと1975年からおよそ30年ほど続き世間の注目を集めた、人気芸能人への登竜門として名をはせたコンテスト「クラリオンガール」を思いつかれる方もいらっしゃるかもしれません。このクラリオンガールも、同社が主催していたものです。
クラリオンの近年までの変遷
クラリオン社の近年までの変遷を簡単にまとめてご紹介します。
時代ごとにカーエレクトロニクス技術の発展を先導
1948年(昭和23年)には日本で初めてとなる自動車向けラジオを開発、販売し、また1963年(昭和38年)に日本初のカーステレオを開発したのもクラリオン社です。
またアメリカを始めとした海外へのカーラジオ輸出を展開し、日本メーカーのカーオーディオ輸出の基盤を築いたのも同社です。
商号が「クラリオン株式会社」となったのは1970年(昭和45年)のことで、その後もカーオーディオやカーナビといったカーAV全般、バス用の放送装置などを開発販売しています。
カーエレクトロニクスの老舗として安定した製造と供給をおこないつつも、時代ごとの最先端技術にも率先して取り組んでいる企業であり、例えば2005年(平成17年)にはApple社のオーディオプレイヤー「iPod」と連携できるカーオーディオをいち早く開発、2007年(平成19年)にはアメリカ航空宇宙局に技術力を認められカーAV機器としては世界で初めて国際宇宙ステーション内の設備に採用されるなど、功績を多く残しています。
クラリオン社は2006年12月、TOB(株式公開買付け)によって日立製作所の連結子会社となり、日立グループの一員として成長を続けたのです。
日立グループからの離脱、仏フォルシアへの売却
2018年10月26日、東京都内にて日立製作所の決算会見が開かれ、クラリオン社をフランスの大手自動車部品メーカーであるフォルシア社へ売却するとの発表がなされました。会見で公表されたところによると、売却額は899億円とされています。
クラリオン社は日立製作所の連結子会社から外れることとなり、翌年3月にはフォルシアの子会社であるエナップ シス エスエーエス社による株式公開買付けが成立し、クラリオン株式は東京証券取引所市場第一部にて上場廃止となっています。
同社は、2021年(令和3年)1月1日 に商号を現在の「フォルシアクラリオン・エレクトロニクス株式会社」へ変更しました。
クラリオン本社ビルの売却
クラリオンのフォルシア社への売却、および経営再建の流れのなかで、2020年(令和2年)にはさいたま市中央区新都心のクラリオン本社ビルが、アメリカの金融系企業グループ「ゴールドマン・サックス」によって購入されました。
これは業績悪化から抜け出したいフォルシア・クラリオン側と、日本での不動産投資を拡大中であったゴールドマン・サックス側の利害が一致したことによるものといわれています。
クラリオンの現在の拠点
2024年3月現在、フォルシアクラリオン・エレクトロニクス株式会社が構える拠点としては、さいたま市中央区新都心の本社・技術センターのほか、福島県郡山市と静岡県浜松市、愛知県名古屋市にそれぞれ営業所が存在しています。
さいたま市の本社については前述でご紹介したようにゴールドマン・サックスへ売却済の不動産となりますが、このように自社ビルを売却したあとも賃貸で主要拠点として使用しつづけることは珍しくありません。不動産の売却先が不動産投資を主目的としている企業や団体である場合は特に、このようなケースが多くなっています。
フォルシアクラリオンの今後の将来性
同社は2018年の仏フォルシア買収以降も、世界有数のカーエレクトロニクスメーカーとして様々な先進テクノロジーを開発・提供しています。
親会社であるフォルシア社は2022年初頭にドイツの自動車部品サプライヤーであったヘラー社を新たに買収し、両社の相互補完性で現在では世界第7位の巨大な自動車サプライヤーとなっています。
傘下であるフォルシアクラリオンとしても、グループの相乗効果を得て今後のさらなる飛躍が期待されています。
企業が自社ビルの売却で得られること
本記事ではクラリオン社の事例をご紹介しましたが、同社に限らず、近年では本社ビル売却のニュースを多く目にするようになっています。
大企業、中小企業問わず、自社ビルを売却することにはどのようなメリットが考えられるか、ポイントをまとめます。
売却益による資金調達
まず一番に考えられるメリットとしてはやはり、所有してたビルを売却することにより、即時的に大きな資金調達をおこなえることです。
資金調達により、経営再建や事業再編、借入金の返済や投資資金の確保などが可能です。その結果、自己資本比率や、総資産利益率の向上も実現できるでしょう。
新たな働き方への移行にも適している
例えば近年、コロナウイルス感染症への対策として世界的に、多くの企業で働き方、オフィスの在り方の改革への取り組みがおこなわれました。
様々な企業で実際に導入されたテレワークでは、そもそもオフィスビルへ出社する人数が大幅に減少し、大きなビルのなかで使用していないオフィススペースがいくつも空いてしまう、という事態が起こりました。
こういった状況を受けて、資金調達にもつながるという両面のメリットを踏まえたうえで不動産の売却に踏み切った企業が多くあります。テレワークについては、感染対策という意味合いだけでなく、テレワークの業務形態が浸透したあとにはワークライフバランスの実現、通勤時間の削減、経営のスリム化や管理コストの削減といった様々な側面にも注目されています。そのため、コロナが終息をみせた現在においても、テレワークを継続・対応範囲を拡大する企業はあり、ニーズと状況が合致すればビル売却は大きなメリットとなります。
もちろん、ビル売却によってデメリットとなる点も慎重に検討することが大切
自社のビルについて売却を検討する際には、先に挙げたメリットを踏まえると同時に、生じるかもしれないデメリットも充分に検討しておくことが大切です。
ビル売却のデメリットとして挙げられる点として、もし売却したビルを引き続き自社の拠点として使用継続したい場合には、当然のことながらリース料が発生するということが挙げられます。ただし売却したことによって従来は発生していた多くの管理コストが削減されたり、売却で得た資金が貯えられたりという面もあるため、総合的に考えるとリース料自体が大きな損失となることは少ないといえます。
もうひとつの大きな懸念としては、ビル売却の事実が周知されることによって、自社の取引先や顧客から事業を不安視される可能性があるという点が挙げられます。
特に規模の大きな企業が不動産の売却をおこなった場合には、各メディアや新聞・ニュースサイトなどで広く周知されることは必然となります。
この点については、そもそも売却がどういった理由で決定されるかにもよりますが、何よりも大切なのは、今後の事業のビジョンや方針、不動産の売却がどう影響するかを自社からオフィシャルでしっかりと発信し、取引先や顧客からの信頼を失うことのないように注意することです。
ビル売却は、必ずしもマイナスとはならない有効な選択肢のひとつ
自社のビルを売却することが経営再建につながった多くの事例のなかのひとつとして、本記事ではクラリオン社の事例をご紹介しました。
同社のみならず、近年では特に働き方改革・事業の柔軟性確保といった「プラス」の理由で本社ビルや拠点不動産を売却するケースが増えています。